令和の青

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2012年03月30日

マイナー志向

マイナー志向

前々回の記事で『忍者ハットリくん』に登場する"ししまる"という犬がたまらなく好きだ、と書いていて気づいたのだが、どうも自分はマイナーなものを好む傾向があるらしい。

僕が幼いころ、数ある藤子不二雄のアニメーションのなかでも圧倒的な人気を誇っていたのは『ドラえもん』だった。たぶん今もそうだろう。

もちろん僕も好きだったがそれ以上に『忍者ハットリくん』が好きだった。さらには主役のハットリくんより何より、脇役の"ししまる"に心惹かれるという、ちょいと渋い選択をする子どもだったのだ。

忍者ハットリくん>ドラえもん、ししまる>ハットリくん
という連立方程式が、若干3才にして僕のなかでしっかりと確立していた。

今でも流行ってるものが嫌いだとかそういう考えはないし、逆に流行ってるものでも自分が良いと思ったらそれでOKと思っている。だが好きになったものがマイナーな存在だった...ということが多い気がする。ししまるのようなことが、思い返すと多々あるのだ。

そんな数あるマイナー志向な思い出たちの中でも、ひときわ輝く一等星が写真にある「おでん消しゴム」だ。

当時の小学生男子のマスト・コレクターズアイテムといえば、ガン消しとキン消しだった。ガン消しとは『ガンダム』に出て来るロボットの形をした消しゴムで、キン消しとは『キン肉マン』に出てくる超人たちのそれのことである。
どちらも駄菓子屋さんやスーパーの前に置いてあるガチャガチャで100円で買えた。

ちなみによく知らない女子なみなさんに説明すると、消しゴムと名がついているが、どれも実際に消しゴムとして使用することはできない。用途はただ眺めて悦に入る、以上である。だがそんなことは男たちにとってまったく問題ではなく、これを集めることに少年たちは少ないこづかいと燃えるようなエネルギーを注いでいたのだ。
そんな空前の消しゴムブームのなか、ガンダムやキン肉マンには目もくれず、心惹かれて僕が集めていたのが『おでん消しゴム』だった。

「ゼータガンダム、ダブッちった。あとシャア専用ザクがあればな」
「マジかよ!俺こないだシャア専用ザクがダブったから交換してやるよ」

雨でドッヂボールに行けない休み時間は、クラスの男子たちが決まってこんな交渉へと精を出していた時代、僕はしずかに自身のおでん種コレクションを完成させることを胸に期していた。

余談だが上記の"ダブる"というのは同じものが2つ当たってしまうということで、それは単位不足で留年の危機に瀕する高校生ぐらい、当時の僕が恐れている言葉だった。
というのも同じアイテムが当たってしまったら、別の同じアイテムがあたった友達と交換すればいい、これがどんなコレクターたちにも共通のルールなのだが、おでん消しゴムを集めているのはクラスで僕だけだったため、交換する相手がいなかったのだ。

「が、がんも、ダブった...」
少ない小遣いから100円を投資し、こんな独り言をつぶやきながら、悲しみにくれていた記憶がある。反対に持っていなかったおでん種があたり、大事そうに握りしめてもって帰った思い出もある。
そんな風にあまりに熱心に集めていたので、父親も感心したのかもしれない。ある時、僕を銀座の伊東屋に連れて行ってくれた。

なぜこの流れで1世紀以上続いている老舗文具店の名前が出て来るかというと、じつは『おでん消しゴム』はもともと三菱鉛筆(三菱uni)が作っているシャープペンシルの替芯、それを買った際におまけで付いてくるキャンペーン商品だったのだ。
そのブームに乗ろうとして、まぁ実際にブームが起きたかは怪しいが、どこかのおもちゃメーカーがガチャガチャ用に便乗してつくったものを、僕はせっせと集めていたのだった。

この三菱製のおまけは、ガチャガチャ用の2倍ぐらいの大きさがあり、それはそれはすごい立派なおでん種で、僕にとって憧れの存在だったのだ。三菱という会社の大きさは、僕の心の中で、今でもこのおでん消しゴムの大きさと比例して刻まれている(笑)

こうして僕は父さんに連いて初めて伊東屋に行った。「きっと替芯は1つしか買ってくれないだろうから、もらうべきは"ちくわ"だな」そう僕は心に決めていた。なにせ"ちくわ"はししまるの大好物なのである。すでに頭のなかでは、大きなちくわを中心に、そのまわりを今まで集めた小さなおでん消しゴムたちが囲む様子が鮮明に浮かんでいた。

ところが店員のお姉さんに、
「はい、僕どうぞ」
とクジ引きの箱を差し出され、僕は硬直してしまう。なんとおでん種はくじ引き制だったのだ。

読売巨人軍のベースボールキャップの下にある顔が、よほど蒼くなっていたに違いない。
僕が何も言わないうちにお姉さんは
「いいわ。特別に好きなの選ばせてあげる。ないしょよ」
と言ってくれた。

ところが"ちくわ"は品切れだった。お姉さんに「ありがとう」と笑顔で頭を下げつつ心で泣いて、僕は第2候補の玉子をもらった。

家路を急ぐスカイラインのリアシートで僕は落ち込んでいたのだが、もらった玉子をいじってるうちに、ガチャガチャの玉子とは違い、白身と黄身が別々に作られ、取り外しできることに気づく。
「や、やった!やった〜!!」
運転している父さんに白身から黄身を取って見せ、
「あぁ〜よかった!むしろ"ちくわ"がなくて良かったぐらいだよぉ〜」
興奮のままに自分の感激を伝えた。

黄身が取れることで、なぜそんなに価値が上がったと感じたのかは今となってはよくわからない。でもほんとうに嬉しかったことを覚えている。
家に帰るとすぐ、僕は"大きな"玉子を中心に、おでんたちを並べ始めたのだった。

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