令和の青

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2012年07月11日

流れは我にあり。

流れは我にあり。

大きな弧を描きながらのぼる道のむこうで、凪いだ海がどこまでも広がっていた。やわらかな陽にこたえ、波は金色の点描で太平洋の彼方にうつくしい光の帯をつくる。そんな光景を背に、十国峠を駆け上がるホンダのおしりには、きみどり色した双葉のマークがついている。

長い直線に入ると突然フェラーリだかポルシェだかが現れ、ルームミラーの中をものすごい勢いで大きくなる。大きなクラクションを満足げに若葉マークへと浴びせると、あざやかな赤色をしたオープンカーは、今度はフロントガラスの先で瞬く間に小さく、風になびく髪を残像のように残し消えた。

「な、なんだあいつ。あんなに飛ばしてどこ行くってんだよ」
肝を冷やした僕が怒気を込め言うと、
「晴れてるうちに屋根を買いに行くんじゃない?」
窓のむこうに目をやりながらじいちゃんが返した。こわばった力がハンドルからするんと抜ける。
僕のおじいちゃんはこんな人だった。

いつだってユーモアで切り返せることを僕に行動で示してくれた。流れを引き寄せる力を僕に教えてくれた。

幼稚園に入ったばかりのなつやすみだったと思う。家族でスイカを食べていて、ぼくは種を飲んでしまった。

父さんは「しんぺい、おなかにスイカが生えてきちゃうぞ」と言ってからかった。ぼくは本気でおそろしかった。おなかがさけて自分は死ぬかもしれない、そう思った。

「おなかにスイカが生えてくる...!?そりゃたくさんスイカが食べれていいやなぁ!」
隣にいたじいちゃんは良いことを聞いたとばかりそう言って、ひとつぶ種を飲んでみせた。
ぼくは安堵した心のなかで、たくさんスイカが食べられていいやなぁ!たくさんスイカが食べられていいやなぁ!何度もその言葉を繰り返した...。

若葉マークをつけて十国峠をのぼったあの日、生前のうちに買ったお墓を前にしながら
「なぁ良いところだろ、もう今すぐ入りたいって感じだろ」
とじいちゃんは笑いながら言った。

「もう少し先でもいいんじゃない?」とだけ僕が返すと、あとはお互い何も言わなかった。そうして視線の向こうで駿河の海の青が、空の青へ溶ける様子をしずかに見つめていた。

ー流れは我にあり。じいちゃんと過ごしたなんでもない日のなんでもない出来事たちが、僕のなかで心象のかけらとなり、ふいに浮き立って力をくれる。追い込まれたとき、疲れ果てたとき、すっと力がわきあがり、光の射す方へと導いてくれる。

今までも。これからも。じいちゃんからもらったこの力と共に、僕は生きてゆく。

※7月11日、今日はかつて↑じいちゃんがセブンイレブンいい気分の日!と呼んでいた僕の誕生日なのです。
メッセをくれた皆さん、本当にありがとうございました!大人になっても、いや大人になるほど、その一言が嬉しいもんですね。

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